Vol.80 自己主張

 心身症の病因の一つに『言いたいこと言わない』という性格がある。人は言いたいことを言わなければストレスがたまって自律神経のバランスが崩れることにより体に変調をきたすのだ。

 しかし昔から私のまわりは言いたいことをはっきり言わないのが礼儀作法のような雰囲気だった。自分の意見をはっきり言えば和が乱れる。だからみんなまわりに合わせる。それでみんな仲良くやってきた。それが日本の伝統的な和の精神なのだ。

 私だけでなく多くの人たちがそのことに疑いを持たずにやって来たのではないだろうか。そして私自身は心身症の治療に関わり出してようやく『言いたいこと言わないから病気になる』という考え方に出会うこととなった。そのときから『言いたいことを言うべきか言わざるべきか』の葛藤状態に突入した。しかし私の葛藤には関係なく「自己主張すべきだ」という旗印の下に治療の一環として自己主張訓練が行われる。

 ところで自己主張するというのは西欧の考え方と言えるだろう。例えば精神分析がそうだ。フロイトのエディプスの理論では子供が自己主張する様子が描かれている。つまり子供は親と“闘う”ことによって大人の強さを身に付けていく。“闘う”というのは親の意見に物申すことであり自己主張である。そういうふうに西欧では子供頃から自己主張訓練がなされているようである。

 一方、和の精神が重視される家庭では親にも従順であり自己主張訓練の場に乏しい。その後学校や職場に入ることによって徐々に自己主張を求められることとなる。そしてその変化に順応すればよいが、それが難しければ例えば病気になるかリタイアすることになる。

 ならばそうなる前に子供の頃から家庭で自己主張の練習がなされていたらよいのではないかと思われる。しかし家庭環境では昔のままの“密着型”親子関係が支配していて親に従うのが主流の考え方だ。

 その結果、私たちは西欧的な考えと日本的な和の精神の間で揺れ動くことになる。その一方でその葛藤状態に気づかなくて混乱状態に陥ることも多いように思う。

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