Vol.79 小説『波』

 小説『波』。作家は山本有三(1887~1974)。1923年に朝日新聞に連載され、1930年(昭和5年)に岩波文庫から出版された。

 私がこの小説を読んで大事なところだと思ったのは「人は過ちを起こして悩み苦しむものだ。それは子供や孫に伝わって行く。それは押し寄せては引き、引いては押し寄せてくる波のようなものでありどうすることもできないものだ」という内容だ。 

 この話は主人公の教師が芸者に出された教え子を助けるというもの。今では考えられないことだが、昔は子供が芸者に出されるという時代があった。その裏には貧困という社会事情がある。そして2度目に芸者に出されたときに逃げ出して来て主人公の家に転がり込んだ。そして成り行きのようにして二人は結婚。しかし結局、先生と生徒の関係は抜け切れず、一年もしないうちに妻は若い男と家を出て行ってしまった。それを主人公は自分のおかした過ちだと苦悩する。

 さらにそういう過ちは親から子供に伝わって行く。それはどうすることもできないもの。それが人の世の“真実”なのだろうから読者をホッとさせるのだが、一方でどうにもならないものをどうにかしようと考える人たちがいることも確かだ。

 特にそれは治療場面で見受けられる。どうにもならないことで苦悩し病気になる人も出て来る訳だが、そのときどうにもならないことをどうにかすることが治療になる。例えば親との問題について言えば、親との関係は治療者との関係でやり直すことになる。

 この小説のように「もうどうにもならない」と自然の成り行きに任せるのが伝統的な日本の考え方のようだ。一方「イヤどうかしたい」と積極的になるのが西欧的な思想にもとづいている。そして現代の日本社会はその両者がごちゃごちゃになって混乱しているように感じている。

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