Vol.74 “O(オー)”

 “O(オー)” は聞き慣れない記号だが物事の奥に潜んでいる未知の真実と言ったものだ。それは誰かの心に捉えられて例えば言葉や芸術作品(音楽や絵画など)に形を変えられる。そんな真実を見抜く力のある人の一人が私の知っている90代の女性Aだ。Aさんと話をして私たちがいつも新鮮な気持ちになるのはそういうAさんの感性に触れるからだろう。

 今回のAさんの話もまたは私たちの心に響いた。それはAさんが知り合いBに会ったときの話だ。Bさんが「認知症の夫が退院して帰って来る」と話したのに対して、Aさんは「今、旦那さんと結婚したと思いなさい」と答えたと言う。Bさんの言葉には認知症の夫の世話がどうなるかという不安が込められている。それに対してAさんは「これまでとは違う夫婦生活からまた得がたいものが得られるでしょう」と勇気付けていると言えるだろう。

 Aさんによると「今、旦那さんと結婚したと思いなさい」という言葉は何もないところからフッと生まれたものだと言う。そのときAさんは「“O” を感じた」と言う。すなわちその言葉はAさんが見い出した真実というものだ。

 ところで久しぶりに聞く“O” 。もともと“O” とはビオンの精神分析の理論だ。何故Aさんが“O” のことを知っているのかと言えば、私が以前“O” のことを書いたものをAさんに渡したことがあったことによる。Aさんには“O”の内容が印象深くて何度も繰り返し読んだと言う。

 しかしAさんは“O”の内容を読む前から日常生活の中で自然に“O”を感じ取って来た人だと思う。さらに今回のBさんとの対話からも分かるように、その感じ取った真実を言葉に変えて相手に返すこともAさんは実行している。そうやって多くの人たちの心の支えになってきたのだろう。そしてBさんもまた新たな気持ちで認知症の夫と向き合って行くことだろう。

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