Vol.65 テレビドラマ(パート3)

 最近のテレビドラマ『泣かないと決めた日』は“いじめ”がテーマであり、その“いじめ”の理由は「スキがあるからつけ込まれる。誰でもよかった」というものだった。なぜ人は相手にスキがあるとつけ込むのか?

 一般的に“いじめ”は悪であるに違いないので“いじめ”をする人間は悪者ということになる。そういう人間の心の闇を考えるとき私が思い出すのは夏目漱石の『こころ』だ。この小説の中で私に印象深いのは先生が「悪い人間という一種の人間がいる訳ではない。普段はみんな善人なのだが、いざというときに急に悪人になってしまう‼」と怒りに満ちて語る場面だ。

 『こころ』はずいぶん前にテレビドラマ化され放送されたことがあった。それを録画して持っているので時々引っ張り出して観る。このように映像化されると物語の場面場面がさらにいっそう印象強く記憶に残るようだ。先生が人間の本性について「いざというときに善人が急に悪人になる」と語る場面がそうだ。このテレビドラマ化では先生役を“イッセー尾形”、親友K役を“平田満”、主人公の大学生役を“別所哲也”が演じている。

 ところで先生が「善人が急に悪人になる」と怒るのにはそれなりの理由がある。先生が両親を亡くしたとき管理を任せた叔父に財産を横取りされた苦い体験があった。また先生を最も苦しめたのは学生の頃に抜け駆けして下宿先の娘さんと婚約を進めて親友Kを自殺に追い込んでしまった過去だった。すなわち先生の怒りは叔父に対する怒りであり、同時に自分自身に対する怒りでもある。信じられないのは人ばかりでなく自分自身でもあった。

 先生が言っているのは「人の心の中に善人と悪人の両方が存在する」ということだ。その悪人の部分が突然出てきて例えば人を裏切ったり“いじめ”たりする。すべては己の利益や快楽のためのものであり人間のエゴによるものだ。

 その人間のエゴのために先生はずっと悩まされて生きて来た。そして結局、先生がこの世からいなくなることによってその問題は主人公の大学生に託されることになる。

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