Vol.62 科学教育

 学校で物理というのは誰からも毛嫌いされる教科ではないかと思う。それは全く現実生活とは掛け離れたものだからであるが、一方で学校での教え方にも問題があるのではないかと思う。あの漱石の弟子である寺田寅彦が明治の頃から次のように語っている。『科学教育というのはただ暗記させるのではなくて自然の不思議さに触れさせることが大切である』と。

 私自身の体験では物理の授業というのは私には“机上の空論”のように感じられた。すなわち暗記主義で実体験に乏しかったと記憶している。そういうこともあってか授業中の内容は私の頭の中には余り残らなかった。それでも私自身は大学でまた物理を勉強することになったのだから人生とは分からないものだと思う。

 さすがに大学の物理学科に入れば講義だけでなく実験をする機会も増えてくる。そうすれば自然の法則に身をもって触れる機会が増えた。特に卒論のときは楽しくさえあった。実験テーマは教授に与えられたものだったが、後は2人一組で試行錯誤しながら実験に取り組むことができた。実験室に泊まり込むこともあった。そして何とか結果を出したときペーパーテストでは得られない達成感があった。何か自分たちの自信になった気がする。

 参考までに当時我々が取り組んだ卒論とは次のような実験だった。塩の結晶の塊に穴を開けて金属ナトリウムを詰め込む。それを電気炉で高温にしばらく熱したあと外に取り出す。急に冷えると金属ナトリウムが塩結晶の中に拡散して色がつく。そんな地味で泥臭い実験を毎日毎日繰り返していた。それが何の役に立つのかと言われてもそれは分からない。

 しかしその卒論実験が楽しかったのは事実だ。というのは試行錯誤しながらも自分たちで主体的にやれたことが大きい。また曲がりなりにも寺田寅彦が言うところの『自然の不思議さに触れる』体験をすることができたからだろうと思う。ところで最近テレビで元高校の先生が理科の実験を興味深くやられているのを観る機会がある。これで多くの人たちが『自然の不思議さに触れる』体験をしているようだが、そんなことをテレビだけでなく学校でもぜひやってもらいたいと思う。

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