Vol.50 ファンタジーの世界

 私が心身症や精神科系の治療に関わっていて疑問に思えるのは『薬で症状が良くなるだけでは不十分ではないか』ということだ。というのも薬で症状が良くなるというのは外的世界の話であり、肝心の内的世界の問題がまだ手つかずに残っているからだ。

 さてその問題の内的世界とは心の中の世界のことでファンタジーに満ちている。なぜ空想的かと言えば外の世界の出来事は各個人の感覚を通して変形されて内的世界の中におさめられるからだ。例えば我々にとってイヤな人物は心の中では“悪い人”に作り替えられているかもしれない。

 さらにその内的世界には“良い自己”も“悪い自己”も存在していて、“悪い自己”と“悪い人”との壮絶なバトルが起こる。それが心の葛藤というものだ。その内的バトルが増えていけば内的世界はゴチャゴチャした病的状態になる。その病的状態の改善が治療目標となる。

 その内的世界の中の“悪い人”とのバトルは外の世界の誰かとの間に転じて移されることがある。つまり転移というものだ。その結果人間関係のもめ事が起こってストレスの原因となる。その転移という現象はいつでもどこでも誰にでも起こり得るものだ。

 例えば治療場面でも起こって過去の重要人物との葛藤が姿を変えて出現してくる。しかしそこが分析上治療的意味を持つ出来事だ。すなわち目の前の治療者との葛藤に本人が取り組むことは過去の問題に取り組むという意味がある。そしてその治療場面での取り組みは社会に出て人々と関わっていく基本となるだろう。

 さらに求められることはその葛藤場面に存在する人々は“一個の人間”として認め合う関係であることだ。そうであってこそ本人の内的世界に“良い関係”が定着することになる。そういう意味では心身症や精神科系の取り組みはファンタジーの世界の話であり現実感に乏しいものであるかもしれない。しかしながらそれは確かに自己の再形成という現実的なことである。さらに言えば“病気が治る”というよりむしろ“自分を作り直す”という意味合いが強い。

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