Vol.42 頑張り

 テレビ番組に『探偵ナイトスクープ』というのがある。視聴者からの依頼を受けて探偵が調査する番組だ。時々感動的なものがある。最近では鎧兜を身に付けて山城に登るお父さんの姿があった。その人は会社が倒産して失職。年齢的なこともあって再就職先がなかなか見つからなくて趣味の山城巡りが生き甲斐のようになっていた。そのお父さんが「戦国時代の武士のように自分も甲冑を付けて山城を巡りたい」と言い出した。「その願いを叶えてあげたい」のと「どうして山城巡りなのか」を知りたいという娘さんからの投稿依頼だ。

 そして番組側が用意した重さ約20キロもある鎧兜を身に付けて、お父さんと足軽姿の探偵は山城の頂上を目指す。夜の山道を登り始めて数十分。途中で根をあげることもなくお父さんたちは頂上に達した。重い鎧兜を身に付けて山城登りを果たしお父さんが遠く夜景を見下ろすその姿には何か感慨深さがただよう。

 そこに思いがけず家族が現れた。番組スタッフが設定したものだったのだが、ビックリしたお父さんは家族を前に語り始めた。「山城を巡りながらこれからまたどうやって頑張って行くかを考えていた」というようなことを。それに対しワイフが「子供も一人前になったのだから子供に頼ったらどうですか」と答えられた。

 楽天的だったお父さんも次の仕事はなかなか見つからなくてプレッシャーを感じ始めていたに違いない。だから山城巡りをすることによって昔の武士のようにしっかりした気持ちを維持しようとしているようだった。そしてまだ何かをやれる気力も体力もあるという自分を確認したかったのだろう。そんなとき思いがけずワイフに「もう休んでもいんですよ」という言葉を掛けられた。それはお父さんにとって思いがけない言葉のようだった。お父さんは絶句。家族も涙。番組スタッフも涙。

 この後このお父さんがどうなったかは分からない。私の推測ではあるがおそらくこのお父さんもまた自らの力で新たな道を歩み始めたのだろう。というのも「頑張れ、頑張れ」と励ますだけではこれまで頑張って来たお父さんの心には響かない。このお父さんのワイフのように「辞めてもいいんですよ。休んでいいんですよ」という言葉が逆に本人を勇気づけただろうと思う。

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