Vol.31 自己形成(パート5)

 世の中はストレス社会である。我々医療者側から見てもストレスの多くが人間関係である。そして人間関係は一種の闘いだから闘う力をつけたい。また闘う自分や相手を知る力をつけたい。さらにもめ事の原因となる様々の情動を知りたい。以上のことを前回まで考えてきたが、あと残っているのが相手を思いやる力だろうか。

 相手を思いやる気持と言えば、それが出現するのはメラニー・クラインによると、子供が6ヶ月から2才の間で体験する抑うつポジションのときである(Vol.23)。すなわち赤ん坊は自分の想い通りに対応してくれなかったと感じてまわりを攻撃する。しかしその攻撃の相手が自分の母親であったことが分かって絶望感や非哀感などが生じて抑うつ的になる。そして相手に済まなかった償いたいという気持ちが生じると言う。

 確かに以上のような体験を大人もするものだ。つまり誰かを攻撃してしまって後で「済まなかった」という気持ちになる。そのときは確かに気分が沈むものだ。そのように人が「済まなかった」という気持ちになるのは普通のことのように思われるが、先の抑うつポジションでの子供は大変な苦痛を感じている。何とかその苦痛に耐えることによって成長した自分をつくることになる。一方、その苦悩を避けてばかりいれば、相手を思いやることを忘れて相手を責めることの多い大人になるだろう。

 世の中では攻撃したり攻撃されたりということは日常茶飯事に起こっている。問題は自分が相手を攻撃したときどのくらい「済まなかった」という気持ちが自分に起こっているかだ。それが人を思いやる自己の形成ができているかどうかの指標となる。

 言ってみれば世の中も人間関係も闘いの場ではあるが、いわゆる戦争のような闘いではなく、お互いに一段高い段階を目指すような有益な闘いでありたい。

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