Vol.13 転移と逆転移(パート2)

 ストレスで重要なのが対人関係だが、その対人関係を掘り下げて考えていくのが精神分析だ。つまり転移や逆転移などについて考えていく。転移というのは現在自分に問題になっている対人関係は過去の重要な人物との関係の再現であった。目の前の誰かが過去に怒りを抱いていた人に重なって見えれば、我々は感情的になり怒りが生じたり不安になったりする。それは我々にとってかなりの負担となって身体化や行動化が起こることもある。

 その転移や逆転移を扱えるようになるために私自身がまず分析を受けることにした(教育分析)が、その結果、その場の対人関係の中で転移や逆転移を私自身で実感できるようになった。また、転移や逆転移という考え方で説明することによって、それまで私の中で混沌としていたものがスッキリしてくる思いがした。

 やはり自然に起こってくる感情をそのままにしていたら混乱する。対人関係上に起こったトラブルのメカニズムを明らかにし、それに例えば転移とか逆転移という名称を与えていいけば、混乱していたものが整理整頓されるようになる。それが混乱状態から抜け出す方法の一つである。それが私の得た実感である。

 我々治療者とPt(患者)との間にも様々な葛藤がある。その中でも私にとって印象深いできごとがある。それはあるPtに「先生は自分のことしか考えていない」と言われたことだ。その言葉は私の心にグサリときたのだが、私はやはり『自分自身のことを考える』ことを続けた。それは何故か?今思えば『自分自身のことを知らないで他の人の事が分かるか』という私なりの考えがあったからだと思う。つまり『自分自身を知ることによって相手を知る』という考え方だ。

 そこで私が始めたことは教育分析を受けることだった。教育分析とはまず私自身が精神分析を受けて私自身を知っていくということだ。その中で転移や逆転移という考え方によって『自分を知ることが相手を知ることにつながる』ということが説明できたように思う。

 Ptによって葛藤が治療者に投げ込まれ(転移)、それに反応して治療者に情動が起こる(逆転移)。そのとき治療者に起こる感情はPtの感情でもあるので、治療者は常に自分のことを考えていなくてはならない。そしてそれがPtを理解することにつながる。そのとき治療者は自身の葛藤が持ち込まれていないか注意する。それは病的逆転移なので治療者はそれを十分に把握しておく必要がある。

 以上のように『自分のことを考える』ことは『相手のことを考える』ことにつながるのだと私自身は考えた。それはあのPtの言葉に対する言い訳のように聞こえなくもないが、それは私自身の信念のようなものであり、私自身を精神分析に向かわせた原動力になった気がする。

 ところで望ましい治療者というのはPtを鏡のように映す存在だと思われがちだが決してそうではない。以上で述べたように治療者というのはただ相手を映すだけの無機質な鏡のような存在ではなく、Ptと同じ様に情動がうごめいている。治療者の気持ちが動くからこそPtを知ることができる。

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