Vol.9 若大将

 本年11月末に加山雄三絵画展に出掛けた。私は昔からの“加山雄三”ファンだ。“加山雄三”と言えばやはり映画や音楽の方が馴染み深いが、絵画も描かれている。加山氏の絵画の世話役をされている方によれば「加山先生は10数年前から描き始められた。絵画展が毎年四カ所で開かれている」と言う。

 今回の絵画展のトークショーで加山氏が「“うまいですね”と言われるより、“いい絵ですね”と言われる方がうれしい」と話されていた。『大事なのは他の誰でもなく本人がその絵を観てどう感じるかだ。自分の絵が誰かの感性に“いい絵だ”と響いたらうれしい』と、そういうことを加山氏は語ったように思う。

 加山雄三氏が主演した映画『若大将シリーズ』は全17作である。その中でも私が一番気に入っているのが『エレキの若大将』だ。この作品の中で若大将(加山雄三)がスミちゃん(星由里子)のために名曲“君といつまでも”を作曲するという筋書きとなっている。二人がこの曲をデュエットする高原のシーンが印象深い。

 映画の中で若大将の実家のすき焼き屋の経営が思わしくなくなったとき、若大将は大学を辞めて音楽で稼いで店を立て直そうと決意する。結局、映画の中でも“君といつまでも”がヒットし、そのおかげですき焼き屋は危機を乗り越え、若大将も大学を辞めなくて済む。

 一方、それとは対照的に青大将(田中邦衛)は大会社の社長の御曹司だが、何かにつけ親にお金を出してもらおうとするドラ息子だ。しかしそのドラ息子と律儀な若大将との掛け合いが映画を面白くしている。また青大将は若大将にとって恋敵である。結局、青大将はスミちゃんに振られ、若大将とスミちゃんが仲良くなるというストーリーだ。

 そういうように『若大将シリーズ』はハッピーエンドに終わる娯楽映画だ。しかし、主人公の若大将が大学を辞めて実家を立て直そうと決心する姿には、それが映画の中の話であるにしても、人としてのたくましさが感じられる。そこには「険しい道であっても何とかチャレンジして行こう」というメッセージが込められているような気がする。

 映画の中の若大将(加山雄三)はスポーツ万能で歌がうまくて自ら作曲演奏する。その上女の子にもててしまう。まさにスーパーヒーローだ。我々はそういう若大将に憧れたものだ。この映画が公開されていた頃は学生運動が盛んだった頃にも重なる。そんな時代に主人公がスポーツ、音楽、恋愛などと学生生活を謳歌している映画なのだから、世間では体制寄りだと揶揄(やゆ)する人たちもいたと言う。しかしそれは当たってないように思われる。

 スポーツにせよ音楽にせよ若大将は自らの意志で取り組んでいる。実家のすき焼き屋が傾きかけた時も若大将は自分が音楽で稼いで家を立て直そうとする。だからと言って若大将がそのまま家業を継ぐ訳ではない。跡継ぎは妹夫婦に任せて若大将は自分自身を信じて自らの道を切り開いて行く。そこに存在するのは主体性であり体制云々の問題ではない。そんな姿が多くの若者に共感され支持されたのだと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です