Vol.8 ビオン

 ビオンは代表的な精神分析家の一人であり、コンテイニング(包容する)という母子の理論が重要である。

 赤ん坊は苦痛になれば泣いたり手足をバタつかせる。そのとき苦痛という感覚があるだけで、『空腹だ』という具体的な考えにまだなっていない。そして赤ん坊は自分の苦痛を母親に投げ入れることに徹する。母親は投げ入れられた苦痛をコンテイニングする。

 それから母親はその苦痛を『空腹ではないか?』と思って赤ん坊にミルクを与える。そして赤ん坊は空腹を満たされる。これは苦痛に対し母親は『それは空腹ということですよ』という意味付けをして赤ん坊に返したということである。これが繰り返されるうちに、その苦痛の感覚が『空腹』という“考えのもと”になっていく。

 それと同様に赤ん坊のその他の感覚も母親によって意味のあるものに変えられ抱えられるものに変えられる。そして再び赤ん坊にかえされる(アルファー機能)。これが繰り返されていくうちに赤ん坊の中にも同じ機能が形成される。

 この母子関係がうまくいけば子供は順調に成長する基本はできる。しかし現実はそう理想通りに母子関係がうまくいくとは限らない。その結果、多くの人たちが何らかの問題を自己の中に残しながら世の中に出て行くことになる。

 一方、世間には親代わりとなるような人がいることも確かである。そこには母親転移とか父親転移という疑似親子関係のようなものが存在し、その関係の中でうまくコンテイニングされることもあるだろう。

 また私たちの普段のコミュニケーションにおいても、お互いにコンテイニングし合うこともある。すなわち、私たちは相手が投げ入れたものを受けとめ、自分の感じ方や考え方で理解し修正して相手に返す。そうすることによってお互いが自分自身の感情に耐えたり考えたりする力を成長させていくことができる。

 ビオンの思考理論によれば人が考えるようになるには2つのことが関与している。一つは投影される内容とそれを受け入れる容器との関係である。例えば苦痛に感じられるもの(内容)は投げ出されるが、それを誰か(容器)がしっかりと受け止めるという関係が必要である。そしてその訳の分からない内容は意味のあるものとなって返される。

 もう一つは苦痛な情動が十分に心の中に留め置かれる必要があるということだ。つまり欲求不満に対する適当な忍耐力を要する。耐えている間に新たな気づきが現れる。それが考えられることにつながり、混沌としていたものがまとまってくる。従って苦痛から逃れるために、例えばイヤなことがあってすぐにその場を飛び出したり、汚い言葉を吐き出したりという行動化をしていたら思考力はつかない。

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